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マクベス  [映画]

 伊勢谷さんのスペシャルドラマに備えて、WOWWOWに再加入したところ、また映画を見る機会がぐんと増えました。

 最近作から昔の作品までいろいろ見ているのですが、何故か70年代の映画が特に印象に残ることが多く・・・やはり年代的に郷愁を感じるからでしょうか?(笑) せっかくなので、少し感想を残しておくことにしました。

 まずは、ロマン・ポランスキー監督『マクベス』について。

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 綺麗は穢い、穢いはきれい

 何て残酷で陰惨な、でも美しい歴史劇! 荒野の魔女たちの禍々しい異形の様相、王冠のため流されたおびただしい血、また血・・・権力欲にとらわれたマクベスの悪夢のような荒涼とした世界を、壮大なセット、中世風のリアルな質感のコスチューム、存在感のある役者たちを使って、完璧なまでに見事に描ききっていました。 

macbeth&lady_color.jpg

 夜よ すべてを隠せ 優しいあわれみを閉じ込めて

 この血みどろの手で 俺の人並みの恐怖をすべて消してくれ

 暗い烏もねぐらに帰る 昼の天使たちがぐっすり眠り 夜の悪魔が目を覚ます時だ


 この映画の一番の特徴は、従来なら壮年として描かれるマクベスとマクベス夫人が若く美しいこと。 それによって、物語の悲劇性がよりいっそう高められていました。

 マクベスにはジョン・フィンチ。 少しジョニー・デップを思わせる美男俳優さんですが、聞かない名前と思って調べたら、ヒッチコックの『フレンジー』、『ナイル殺人事件』等に出演していました。 誘惑に屈しやすいマクベスの陰鬱な心理、終盤の勇猛果敢な戦いぶり、随所に挟み込まれるシェークスピアの原文の詩的なモノローグも格調高く演じていました。

 一方のマクベス夫人役はフランセスカ・アニス、 腰より長く伸びた金糸のような美しい髪と零れ落ちそうな黒い目がクールな美女。 曳きずるほど長い裾のドレスのほっそりとしたシルエットがまた美しく、どこか少女のような無邪気さを残した容貌が、気の触れた姿をいっそう痛々しく見せていました。 彼女はどこかで見たことがあると思ったら、『砂の惑星』のレディ・ジェシカ、ポールのお母さんだったのですね! この大きな美しい目は一度見たら絶対忘れられません。  

 それにしても、場面場面が本当に印象的でよく出来ていました。 背景に暗雲がたちこめる荒涼としたスコットランドの平原。 マクベスの即位式が行われたストーンヘッジの丘の原初的で呪術的な神聖さ。 また陰謀の行われた夜の闇の深さ、あるいは雷鳴とどろく嵐が吹き荒れ、土砂降りの雨が地面をぬかるみと変えて高貴で華麗な衣装や靴をも泥で汚していました。


 明日 明日 またその明日がこれこそと 日ごとに通っていく

 歴史の最後まで 昨日はすべて愚か者の墓場へと道を照らす

 消えろ短いローソク 人はひと時の影 三文役者 舞台の空騒ぎ 終われば消えるだけ

 まるで白痴の独り言 怒鳴りわめくだけで 何の意味もない


 最後、斬られて槍に先に突き刺され、城の頂上に掲げられるマクベスの首のまだ生きているかのような表情が、とにかくグロテスクで、なんとも言えない虚無感がありました。 どこかのブログで、あのグラグラするアングルは、「マクベスの首の視点で撮られた画面」と書かれていましたっけ・・・ 何てポランスキーらしいブラックな映像センス! 最後の最後まで緊迫した劇的演出に、見終わった後は、底なし沼のように深い悪夢からさめたような気分になりました。 本当に濃く充実した二時間余でした。

 ところで、この映画、これだけ傑作なのに、日本国内ではDVDが出ていないんですよ~ インポート版は出ていますけど・・・


Macbeth [DVD] [Import]

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  • 出版社/メーカー: Sony Pictures
  • メディア: DVD



 まさに、埋もれた名作とはこのことと思いました。 まあ、それを放映してくれたWOWWOWさんには感謝ですね。 一応問い合わせたところ、再放送は11月7日だそうです。 興味を持たれた方は是非どうぞ! でも、やっぱりDVDが出てほしいですね~近いうちに、国内でも発売されますように・・・

 それにしても、この映画を見て、ポランスキーの作品が無性に見たくなりましたよ! ナスターシャ・キンスキーのただならぬ美貌と映像美が忘れられない『テス』、戦時中のヨーロッパの陰鬱な雰囲気がただよう『戦場のピアニスト』ジョニー・デップ主演の古書をめぐるアヤシゲなミステリー『ナインスゲート』等など、どれも公開当時夢中になって見たものばかり。 それから、まだ見たことのない最近作の『ゴーストライター』も近々WOWWOWで放映されるみたいなので楽しみです♪ お年なのにまだまだ現役で頑張っている監督にエールを送りたいです。


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コメント 4

sana

この映画、昔、見ました!
といっても映画館じゃないかも~?
ロマン・ポランスキーでしたか。すっかり忘れてました。
マクベス夫人が異様に綺麗なわけだわ。
「砂の惑星」とはまた懐かしいタイトル。うつくしい母息子なのですね~。
ジョン・フィンチもすっかり忘れていましたが、そういえば聞いた名前。

「テス」は映画館で見ました~。
コスチューム物(歴史物という意味で)は出来るだけ見たい方なので。
時代色たっぷりの暗い話なんでちょっと閉口するんだけど、あまりの画面の美しさにテレビ放映の時も見ました。
「ナインスゲート」はテレビで…(ジョニデは大抵見ているので)
「戦場のピアニスト」は見てませんが。
いろいろ良い映画があったなと懐かしいです☆
by sana (2012-10-06 14:44) 

aya_rui

私自身、マクベスは見たことがありませんし
WOWOWは加入していないんですが
tatchanさんの解説を読んでいるだけでも
マクベスの世界観を感じられたようで
掲げられたマクベスの首からの視点が、見えた気がしました。

そこまでして監督が訴えたかったものを考えると、
確かに目を覆いたくなる光景からも
そのような姿にされてまで見たマクベスの心境を
汲み取って欲しいという強い信念を、感じられる気がして
こだわり抜かれた演出を、見る価値は十分に有りという感じなのでしょうね。

どうせ見る映画ならば、そういう一本と出会いたいなと思いました☆
by aya_rui (2012-10-07 14:36) 

tatchan

*sanaさん*
こんにちは♪
ナイス、そしてコメントもありがとうございます^^

『マクベス』ご覧になっていましたか!
公開何年か後、TVで放映されたみたいなので
きっとそのときではないでしょうか。
そうそう、ポランスキーの女性に対するこだわりは相当ありますから
監督の趣味は出ていますよね~(笑)
マクベス夫人の美しさにはかなりやられてしまったので
思わず『砂の惑星』まで見たくなりました☆

>美しい母息子
ポールは、カイル・マクマクランでしたよね!
確かに美形親子でした(笑)

有名な話なのについ書き忘れてしまいましたが
『マクベス』はポランスキーの奥さんで女優のシャロン・テートが
妊娠中ヒッピーに惨殺されたという事件の直後に作られた映画だそうで
陰惨な空気は当時の監督の心理状態を如実に表していると言われています。。
シャロン・テートについては映画でみたことがないのですが
写真を見るとフランチェスカ・アニスに似た美しい金髪の女優さんでした。
監督の映画の中に金髪美女が多いのも
亡くなった奥さんの面影を重ねてということもあるかもしれませんね。

『テス』もご覧になっていたんですね♪
ナスターシャ・キンスキーの美しさがもっとも出ている
素晴らしい映画ですよね~
とくに馬鹿息子がテスに木苺をたべさせるシーンは
美しいやら色っぽいやら・・・夢にようで忘れられません~

ジョニ-・デップお好きでしたか!
私はファンと言うほどではありませんが
結構好きな男優さんのひとりです~
ティム・バートンの映画はアリス以外ではほとんど見ていますよ~
出会いはやっぱり『シザーハンズ』だったかな?

そうそう、70年代~80年代の映画を見ると懐かしくて
まるで故郷に帰ったような気分になります。
最近の映画ももちろん素敵な映画がいっぱいありますが
この頃の映画はやっぱり特別ですね(笑)
by tatchan (2012-10-09 16:45) 

tatchan

*aya_ruiさん*
こんにちは♪
ナイス、そしてコメントもありがとうございます^^

余り見る機会がなさそうな映画の感想を
丁寧に読んでいただいて本当にありがとうございます!
世界観、つたわったでしょうか~
もうホント拙い文章なので恐縮です><

首の表現は確かにインパクトがありました!
グラグラした首の映像は
新しい王の誕生に笑う人々の顔とオーバーラップして
ひと時の欲望に踊らされた愚者を
さらしものにしていると言う感じでしょうか。
荒野の洞窟に集う魔女たちの異様さといい
とにかく全編ポランスキー独特の呪術的雰囲気があふれた
見ごたえのある映画でした。


>どうせ見る映画ならば、そういう一本と出会いたいなと思いました☆

そうですね~軽くて明るい映画を気晴らしに見るのもいいですが
こんな少し胸焼け(?)のするくらいへヴィな映画のほうが
自分の性に合っているのかもしれないと思います(笑)

私もまた素敵な映画との出会いを求めてまた色々見てみようと思います♪

*ぼんぼちぼちぼちさん*
こんにちは♪
ご訪問、そしてナイスもありがとうございます^^
by tatchan (2012-10-09 16:46) 

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