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王妃マルゴ [映画]

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 実はこの映画、公開当時(1994年)既に見ていましたが、つい最近、萩尾望都『王妃マルゴ』を読んでから無性に気になって、再度鑑賞してみました。

 いや~、こんなに素晴らしかったっけ!?と思うほど、情念渦巻く壮麗な歴史絵巻にクラクラするほど圧倒されました! 

 物語は16世紀フランス、ヴァロア王朝の支配下、旧教徒カトリックと清教徒ユグノーの争いが激化していた時代。 時の国王シャルル9世の妹マルグリット・ド・ヴァロアことマルゴは二つの勢力を和解させるために、ユグノー派のまた従兄弟ナヴァール公アンリと政略結婚することになります。

 とにかく、冒頭の大聖堂の婚礼式にしても、王と貴族たちのイノシシ狩りにしても、場面場面がバロック絵画のように力強く躍動感あふれ、また打楽器や笛の音が印象に残るエキゾチックな音楽もクセになりそうなほど素晴らしかったです~! 監督のパトリス・シェローは、舞台監督として有名な人だそうで、だから劇的な空間作りがこんなに巧みなんですね。

 印象に残る場面は多々あるなか、一番衝撃的だったのは、前半のクライマックスと言うべき、凄惨を極める聖ヴァーソロミューの大虐殺でした。 宗派の違いというだけで、まるで動物を屠殺するように人間が同じ人間をいとも簡単殺すという恐ろしさ・・・! この容赦ない残酷描写は絶対映画史上に残る名場面と思います。 殺された人々の累々たる死体の山は、まるで悪夢のように脳裏に焼きついて決して離れません。 

 それにしても、ヒロイン、マルゴ役のイザベル・アジャーニの美しいこと! 夜の闇のような漆黒の髪、アラバスターの肌、宝石のような青灰色の瞳・・・まさに「ヴァロアの真珠」とうたわれたマルゴそのものでした。 そのうったえかけるような美しい目で見つめられると、同じ女の身でも思わずグラッときてしまいます。 アジャーニはその昔、『アデルの恋の物語』を見て以来夢中になった女優さんでしたが、今回あたらめてそのファムファタル的美しさに魅せられました。

 一見淫蕩で不道徳な女性に見えながら、その実優しく温かい心を持っていたマルゴ。  ドロドロと退廃的な一族のなかにあって、唯一生き生きとした人間的な魅力にあふれていました。 ユグノーの貴族ラ・モールとの恋は絵に描いたような美男美女の外見もさることながら、孤独な魂が半身を求めて惹かれあう切なさにうっとり陶酔しました。

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 ラ・モールの「もし僕が死んだら、貴女はこの首を大切にもっていてくださいますか?」というセリフは本当ぐっと来ます~>< 実際、その不吉な言葉通りに、彼は王族の陰謀に巻き込まれ無実の罪で処刑され、涙ながらにマルゴが彼の首を抱えることになるんですよね~ああ、何たる壮絶なFatal Love

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 アジャーニの熱演以上に印象に残ったのは、シャルル9世、マルゴの兄です。 ジャン・ユーグ・アングラートは細面の端正な顔で、幼児性丸出しの行動をとったかと思うと、本来の高貴な王の顔に戻ったり、怪物のような母カトリーヌ・ド・メディシスの精神的支配に苦しむ、心の均衡を失った病的な王様を生々しく熱演していました。

 彼は、妹マルゴに寄せる近親相姦的な偏愛と、命の恩人である妹の夫、ナヴァール公との友情との間で揺れる心が切なくて、結局は、実の母の陰謀が巡り巡って彼を殺し、血の汗を流しながら非業の死を遂げるという最期はとにかく哀れで涙が出ました。 

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 そして、その諸悪の根源とでも言うべき ほとんど魔女か妖怪かという面構えの母カトリーヌ・ド・メディシス、背筋が凍るほど迫力満点でした!  ヴィルナ・リージはこの役でカンヌ映画祭助演女優賞を獲得したと言うことですが、夫の喪に服した黒いドレスの上に蒼白い顔をのぞかせる様はまるでルーブル宮にさまよう幽霊のようで、ヴァロアの血筋に執着する怨念の母を見事に演じきっていました。

 
 しかし、カトリーヌと言えば、あのフィレンツェの名家メディチ家の出なのですよね☆ メディチといえば銀行家で知られていますが、元々は丸薬を扱う薬屋でした。 そして、薬と言えば、毒薬も!というわけで、ボルジア家~ではないですが、この映画では、彼女の最大の武器、毒薬が大活躍していました。 わ~もう~恐ろしいっ!

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 そして、カトリーヌの最愛の息子、次男のアンジュー公、後のフランス王アンリ3世は、兄弟のなかでは武勇の誉れも高く一番の美男と言うことですが・・・冷酷で傲慢不遜で母親としょっちゅう抱き合ったりキスしたり、ベタベタしているところは、ここも近親相姦?と思えるほど気持ちが悪かったです。 

 しかし、↑右のギース公(マルゴの元愛人)といい、絵には描きませんでしたが、マルゴの弟アランソン公もともに美男で、ユグノー側も、マルゴの夫、ナヴァール公アンリはさすがにいい男と言えませんが、彼の従者や同士も美男ぞろいで、マルゴの周りはイケメンだらけ言うところもよかったです~笑

 それにしても、最後、兄のシャルル9世が崩御した悲しみの涙も乾かぬ間に、戦地から颯爽と帰還したアンジュー公に向けて「新国王アンリ3世万歳!」という祝福の声が響き渡る瞬間の無常感! いつの世でも、権力の移り変わりはかくも冷酷に描かれるものとため息が出ました。


 このところ、15世紀イタリア~16世紀イギリス~とルネッサンスづいていましたが、フランスルネッサンスは盲点でしたね~ ルネッサンスは、人間の目を背けたくなるような本能的な獣性と理性と知性を重んじるヒューマニズムのせめぎあいが本当ドラマチックで面白いです☆

 と言うことで、また関連本も色々読んでいます。
 
王妃マルゴ

王妃マルゴ

  • 作者: アレクサンドル デュマ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1994/12
  • メディア: 単行本


 抄訳ですが、あの『三銃士』で知られるデュマ作の映画の原作本です。 まだほんの冒頭しか読んでいませんが、補足として本文の間に挟みこまれる訳者の鹿島さんのコラムが面白くて、当時の歴史や風俗を知る雑学として読むことも出来ます。

 しかし、さすがにマルゴとラ・モールの出会いとかは宮殿の中で割合普通ですね~映画では、マルゴが仮面をつけて夜の街を男漁りに出かけたときに出会ってイキナリ深い仲になっていましたけど^^;

 そして、きっかけとなったこのマンガももちろん面白かったです~☆

王妃マルゴ 1 (愛蔵版コミックス)

王妃マルゴ 1 (愛蔵版コミックス)

  • 作者: 萩尾 望都
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2013/01/25
  • メディア: コミック


 萩尾さんにしては絵がシンプルなところは少し物足りない気はしますが、慣れてくると、当時の風俗がトランプの絵のようで、おとぎ話を読むように楽しくなってきます。 6歳から描かれた少女時代のマルゴは明るく生き生きしていて、ちょっと初期の萩尾さんのマンガを思い出しますね。 池田理代子さんとの対談で、今まで避けてきた「性」を描きたいと対談で言われていましたが、その点ではこれからが楽しみ♪ 思春期を迎えたマルゴが早く見てみたいです☆

追記: イザベル・アジャーニのイラストをトップに追加しました。 彼女は、とにかく描くのが難しくて・・・思い入れがあるだけに四苦八苦しました~>< (2/12 PM:16:30)


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sana

「王妃マルゴ」いぜん映画館で見ました!
すごかったです~。
アジャーニ、美しかったですね~。
20ぐらいの役だけど、確かこのとき38歳で出産後だったんじゃないかしら。お肌が角曲がるどころか美貌の絶頂のようでした。

また色々タイプの違う美男そろいで。
端正なジャン・ユーグ・アングラードのこのときの演技は印象的でした。

ヴィルナ・リージすごかったです‥怪演でした。
ひいきにしている王子がそれなりにハンサムだけどろくでなしっぽいのもなんともいえなかった‥(笑)

あ、そうそう、デュマの原作を私も読んだんですが~普通で面白くなくて、がっくりしたのを覚えています。
鹿島さんのコラムが入っている版ではないので、そのほうがよさそうですね。

萩尾さんが描いてるんですか~?!
知りませんでした!
これまでの主役とはまったく違いますよね。思い切ったキャラクターなので、かえって描けるのかしら?
by sana (2013-02-06 18:37) 

aya_rui

絵画のような美しさを、映画作品として
魅せるというのは、本当に細部までこだわりつくして
映像化された結晶なのでしょうね。

時代が持つ世界観や、期待感をも超越する
映像美で無ければ、見劣りしてしまう所もあるかと思いますが
リアリティーだけでない、今だからこそできる効果が巧く効いているのでしょうかね。

登場人物たちが織り成す美しさも勿論、
tatchanさん自身惹かれたという、音で引き立てる魅惑感も
いい相乗効果を齎してくれているのでしょうね。

終始鷲掴みにされた気持ちが、休まる暇が無い位に
目まぐるしく感情が揺さぶられてしまいますね。
でも、その位に入り込めて見れるのが凄い作品だなと思いますね。
by aya_rui (2013-02-09 20:43) 

tatchan

*sanaさん*
こんにちは♪
ナイスとコメントもありがとうございます^^

この映画、sanaさんも見ていらっしゃいましたか☆
映画館でと言うことは、やっぱり渋谷のBUNKAMURAでしょうか?
私は残念なことにロードショウは見逃してしまい
ソフトが発売されたとき家で鑑賞しました。

実は当時はあまり歴史的なことを知らずに見たので
映像やドロドロとした人間関係には圧倒されましたが
この映画の本当の凄さをよくわかっていなかったんですよ。

今回見たのは萩尾さんのマンガがきっかけでしたが
これがなかなか人物相関図やストーリーがわかりやすくて
興味が深まったところで、歴史の本も少し斜め読みしして
初めてこの映画の底力が見えてきた気がします。
いや~パトリス・シェロー恐るべし!そしてイザベルアジャーニの
憑依っぷりもさすが!と思いました。

他の男優さんたちもそれぞれが濃~い演技で充実していましたね~
そうそう、当時はジャン・ユーグ・アングラートとか結構注目していました。
あの優男ぶりが結構好みでvv もちろん『ベティ・ブルー』も見ていました。

ヴィルナ・リージはあの『エヴァの匂い』にも出ていたんですね!
画像検索してみて美女ぶりに驚きました☆

>あ、そうそう、デュマの原作を私も読んだんですが~普通で面白くなくて、がっくりしたのを覚えています。

確かに映画のただならぬ緊迫感が余り感じられなくて
マルゴの性格もお綺麗お上品になっていて
面白みがいまひとつでしたね~
アジャーニ自身も原作は読んでいなかったそうですよ(笑)
その代わり、脚本の段階でかなり意見したとか
昔の『マリクレール』に載っていたインタビューに書かれていました。
その代わり、コラムはやっぱり面白かったですよ~
「マルゴとナヴァール公アンリのその後」を読んでも
女だてらで戦争をおっぱじめようとしていたり
その後のマルゴの人生は波乱に富んでいたんだな~と思いました。

そういう意味でも、萩尾さんのマンガはみっちり描いてくれそうで
これから先がとても楽しみなんですよね♪
sanaさんも機会があったら読んでみてください☆
by tatchan (2013-02-12 17:20) 

tatchan

*aya_ruiさん*
こんにちは♪
何時も、オタクな感想にお付き合いいただき感謝感激ですvv

本当にこの映画の生き生きとした躍動感は素晴らしかったですよ☆
そうですね~バロック絵画と言いましたが
画材はやはり油絵の感じでしょうか。
ねっとりとした黒い闇の深さや赤い血、汗、涙の輝きが
生々しくつたわってくるように感じました。
そう、音楽もイスラム調の曲が不思議とマッチして
この映画を生き生きと盛り上げていましたね。

>登場人物たちが織り成す美しさも勿論、
>tatchanさん自身惹かれたという、音で引き立てる魅惑感も
>いい相乗効果を齎してくれているのでしょうね。

そう、映像、音楽、俳優たち、各々素晴らしいというだけでなく
互いに引き立てあって相乗効果を生んでいるところが
また素晴らしかったと思います☆
例えば、衣装だけ素晴らしくても
映画としてみると全然駄目という歴史ものは
ハリウッド映画などでは結構ありますが
そういうのと対極にある映画という気がしました。

実は、この映画の生々しい表現を見ていると
何故だか時々『龍馬伝』を思い出しました。
少し靄のかかったようなフランスの自然とか
華麗な衣装を惜しげもなく汚く着こなす俳優さんたち、等等・・・
好きなものというのはどこか繋がっているものなのだな~と
思えた映画でもありました(笑)
by tatchan (2013-02-12 18:18) 

tatchan

*ぼんぼちぼちぼちさん、nyonyoさん*
こんにちは♪
ご訪問、そしてナイスもありがとうございます^^
by tatchan (2013-02-12 18:19) 

tatchan

*alba0101さん*
こんにちは♪
ご訪問、そしてナイスもありがとうございます^^
by tatchan (2013-02-21 12:05) 

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