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もうひとりのシェイクスピア [映画]

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 去年の秋、近々シェイクスピアの映画をやるらしいという情報を得てから、ずっと公開を楽しみにしていたこの映画。 ようやく年の暮れに見に行ってきました☆

 これは、現在シェイクスピア作とされる偉大なる戯曲の数々が、実はシェイクスピア自身が書いたものではないという、「シェイクスピア別人説」を真っ向から描いた、いわば異端の物語。

 シェイクスピア作品には思い入れがあるだけに、ヘタに描くと眉唾~となって話に入り込めないこともあるかと少し危惧していたのですが・・・冒頭、あの名優のデレク・ジャコビ(なんと彼も別人説支持者だそうです☆)が案内役となり誘うのは重厚かつ華麗な世界、気がつくと、実際17世紀のロンドンに足を踏み入れたかのようにそこにどっぷり浸かっていました☆

 主人公は、別人説のなかでも最有力候補と言われる、オックスフォード伯エドワード・ド・ヴィア。 数奇な運命の下に生まれ才能あふれる悲劇的人物としてドラマチックに魅力的に描かれていました。 エリザベス女王との禁断の恋や、養父セシル卿との確執など、波乱に富んだ彼の人生はまるでシェイクスピアの戯曲そのもの。 死の床についた最後の場面など、高貴で不遇な天才の末路に思わず涙がこぼれました。 

 リス・エヴァンズの繊細な演技と貴族的な雰囲気が素晴らしくマッチしていましたね。 彼は『アメイジング・スパイダーマン』などの悪役で知られた俳優さんだそうで、自分は悪役向きな人には惹かれるので、他の出演作もぜひ見てみたいと思いました。

 また脇を固めたキャラクターもどれも粒ぞろいの個性豊かな人物ばかり☆

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 エドワードに「太陽」と称されるエリザベス女王は、ヴァネッサ・レッドグレイヴ。 一国の元首として女神のような神々しさと恋多き芝居にも夢中になるひとりの女性としての無邪気さを兼ね備えた彼女を、ベテラン大女優が存在感たっぷりに演じていました。 お歳を召していても本当に美しい方ですねvv ヴァネッサ・レッドグレイヴといえば、ミュージカルの『キャメロット』ミケランジェロ・アントニオーニ『欲望』など有名な映画がたくさんあるのに、恥ずかしながら最近作しか見ていくて・・・でも『つぐない』のヒロインの晩年役の複雑な内面性をあらわした深い演技は強く印象に残っています。

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 感心したのは、若き日のエリザベス(イラスト右)。 なかなか似ている女優さんを見つけてきたものだと思ったら、ジョエリー・リチャードソンは、姓は違うけどヴァネッサ・レッドグレイヴの実の娘さんなんですね! いや~知らなかった☆ 道理で、目元とか鼻筋とかソックリで、全然違和感がありませんでした。 彼女も『ドラゴンタトゥーの女』でアンナというキーパソン的女性を演じていたのが記憶に新しいです。

 それから、セシル卿(イラスト左)、狡猾さが出ていて悪役としてなかなか見ごたえがありましたが、ここでもびっくりすることが☆ セシル役のデヴィッド・シューリスって、ハリポタルーピン先生をやられていた方ですか!? まだほんの中年なのに、老人役が上手すぎです! 私は、てっきりこの方も女王様と同様、往年の名優がやられているのかと勘違いしていました^^;

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 リチャード3世のモデルとして描かれていた息子のロバート・セシル卿も個性的で面白いキャラクターでしたね~ 強烈な目線、不気味に曲がった背と異様に甲高い声、エドワード・ホッグは聞かない名前と思ったらイギリスの舞台中心の俳優さんなんですね。 エドワードに対する嫉妬も、陰謀を企てる腹黒さも、リチャード3世を思わせて、いやホント絵に描いたように陰鬱な雰囲気がよく出ていました(笑)

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 そして、後の桂冠詩人として知られるベン・ジョンソン、この映画では、エドワードが最初に戯曲を与えて偽りの作者になれと命じた若き戯作家でした。 彼は、大学出で教養も才能もありながら、エドワードの書く戯曲の前では色あせて、芸術家として認められず苦悩する切なさと、それでもエドワードの才能は誰よりも理解し畏敬の念をいだいている、その複雑な心境が少し『アマデウス』を彷彿とさせました。 セバスチャン・アルメストロは、日本で言うと榎木孝明を思わせるしっかりとした骨格の俳優さんですが、なかなかの熱演で引き込まれました。 彼はエドワードの影というか、もうひとりの主人公とも言えますね。

 
 こうした魅力的な俳優陣に加えて素晴らしかったのは、なんと言ってもエリザベス朝時代のロンドンの町並みや風景が見事に再現されていたということです☆ それから、まるでエリザベス朝絵画から抜け出てきたかのような華麗な貴族のコスチューム、素材感あふれる民衆の衣装の数々も本当に素敵でした! これらの見事な視覚効果によって、民衆が熱狂する演劇の場面、グローブ座のスペクタクルな内部、 優雅で幻想的な宮廷劇、当時の時代の息吹が生き生きと再現されていました。 

 監督のローランド・エメリッヒ『デイ・アフタ・トゥマロー』、『インデペンデンス・デイ』など、主にパニック映画を得意としてきたそうで、今回の歴史劇は意外な感じがしましたが、 パニック映画での特殊撮影技術の経験が生かされたと考えると、なるほど~と納得がいきました。 相方は、「受けのいいパニック映画で資金を稼いで、本当に撮りたい映画をつくっているんじゃないの?」と言っていましたが、ちょっとそんなところもあるのかもしれませんね(笑) 

 「私は人間の心をずっと書いてきたからわかる。 君は私を裏切っても、決して私の作品は裏切らない」

 ラストシーンで、死の床に就いたエドワードが見舞いに訪れたベン・ジョンソンに自らの作品を託して語った彼の最後のセリフが泣かせました。

 大胆に別人説を描きながら、全編シェイクスピアの戯曲を生き生きとちりばめてその魅力を存分に伝えていたこの映画・・・ 本当に、シェイクスピア作品に対する限りない愛と敬意にあふれた素晴らしい物語(フィクション)だったと思います。  

 さて、実は、「シェイクスピア別人説」についてほとんど予備知識がないまま鑑賞しまったので、映画を見終わった後、少しでも別人説について知りたくて、早速本を読んでみました。

 
謎ときシェイクスピア (新潮選書)

謎ときシェイクスピア (新潮選書)

  • 作者: 河合 祥一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/03
  • メディア: 単行本



 映画パンフレットにコメントを書かれていた河合祥一郎先生の著作です。

 この映画のオックスフォード伯を始めとして、クリストファー・マーロウフランシス・ベーコンなどの別人候補の6人を詳細に検証しているだけなく、続く章で「シェイクスピアとは何か?」について語り、17世紀のエリザベス王朝時代の社会や文学事情についても詳しく説き明かしています。 面白いミステリーを読むように先が気になって、ほとんど一気に読み切ってしまいました。 十分な史料と考察に基づいた真面目な学術書でありながら、スリリングでワクワクするこの本、シェイクスピア自身に興味のある方にはぜひお勧めです☆

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コメント 7

tatchan

*sanaさん*
こんにちは♪
ご訪問、そしてナイスもありがとうございます^^
by tatchan (2013-01-17 15:54) 

tatchan

*みやさとさん*
こんにちは♪
拍手コメントありがとうございます^^

こちらこそ、まだ正月疲れがぬけなくて
新年のご挨拶もまだで本当に失礼しましたm(_ _)m

絵も見ていただきありがとうございます^^
この映画の絵もほとんど去年に描いたもので
今年になってからまだ落ち着いて絵を描く機会がありません(涙)

今年の大河は、当然見ております~♪
オーソドックスな大河と言う感じで
主人公をはじめ、兄上やお殿様、それからいろいろな偉人たちも
なかなかのハマりようで、安心して見続けることが出来そうです。
感想も書きたいのですが・・・
情けないことに気力が出なくて遅れに遅れております^^;

また落ち着いたらそちらにも伺いますね。
こちらこそ、今年もどうぞよろしくお願いいたします☆
by tatchan (2013-01-17 15:55) 

sana

面白そうな映画ですねえ!
好きなタイプなんですが‥ちょっと見に行けそうもなくて残念です。
エリザベス女王の時代や、「恋におちたシェイクスピア」とか、好きで。
いつかDVDかBSの放映か何かで見られるときが来るといいなあ。

主役は、知性の感じられる風貌で、素敵ですね!
貴族ならではの葛藤や、大衆に演劇が与える影響力など、これまでとは違った視点が面白そうですね。
ロバート・セシルやベン・ジョンソンも気になります。

シェイクスピア別人説には組しませんが(笑)なんらかの協力者はいたような気もします。若い頃の経歴がはっきりしないので誰かに指導されていたかもしれないし、大量の作品がありますからねえ。
公式サイトを見たら、自筆原稿が残っていないのも根拠のひとつに挙げられていました。ああ、それで児童向けの作品などでシェイクスピアが口述筆記するのが多いのねと納得しました。

ヴァネッサ・レッドグレイヴはいくつも見てはいるけど~出演作が多いので、ほんの一部ですよね。
「キャメロット」とか、アン・ブーリンとか、メアリー女王の役とか、アガサ・クリスティの役とか、「ダロウェイ夫人」とか、皆テレビで見ました。
ジョエリー・リチャードソンは、マリー・アントワネットをやっていたことがあるような。チャタレー夫人もそうかな?姉のナターシャと区別つきにくいですが。
トニー・リチャードソン監督との間の娘なんですよね。
俳優一家はこういう配役ができて良いですねー。
by sana (2013-01-18 17:27) 

tatchan

*sanaさん*
再びご訪問、そしてコメントもありがとうございます!

あら、スケジュールが合いませんか~
この映画、私的には画面や美術もよく出来ていて
すごく面白い作品と思うのに
結構上映館が限られていますからね~
TV放映は難しいと思いますが
DVDが出たときにでもぜひぜひ☆
かく言う私も、もう一度見たいので
DVDが早く出てくれないかな~とすでに首を長くしています(笑)
実はすでに映画館に二度通ってしまいました^^;

>シェイクスピア別人説には組しませんが(笑)

常識的に考えるとそうですよね。
でも、私は映画を見て思わず別人説を支持したくなってしまいました(笑)
その後、河合先生の本を読んで冷静になりましたけど
映画の出来がそれだけ説得力があったんです。

そう、自筆原稿がないんですよね~
それが最大の色々取り沙汰される原因かもしれませんね。
それから大学教育をうけていない田舎者がというのもありますし。
でも、当時のカトリック派が受けた弾圧、演劇事情、出版事情など
いろいろ考えると、やはりストラッドフォード生まれの
あのシェークスピアが書いたと考えるのが妥当と
本には書かれていました。

複数の著者説は可能性が高いようですね。
初期の作品はとくに。
当時の事情としては合作は珍しいことではなかったようです。

ヴァネッサ・レッドブレイヴの映画を沢山見られているんですね!
せめて『キャメロット』を見たいのですが、ギネヴィア王妃の役ですし。
それから『ダロウェイ夫人』もですか☆
わ~見てみたい!さぞ素敵でしょうね~
彼女の上品で知性的な雰囲気が好きなので
また色々見てみますね☆

娘さんのジョエリー・リチャードソンの映画も見ていらっしゃいますね~
彼女は、今見ているイマジカの海外ドラマ
『TUDOR』というヘンリー8世のドラマで
ヘンリー8世の最後の王妃役を演じているんですよ。
この王妃は、エリザベスの復権に尽力した人だそうで
今回のエリザベス役もこの王妃役あたりで評価されて
来たのかもしれませんね。

本当色々見たいものが増えてしまって
嬉しい悲鳴を上げています(笑)
by tatchan (2013-01-22 10:14) 

tatchan

*nyonyoさん*
こんにちは♪
ご訪問、そしてナイスもありがとうございます^^
by tatchan (2013-01-22 10:15) 

aya_rui

別人説とは面白い観点ですねぇ。
それもただ真実追求ではなく、愛があるからこ、
その探求と照らし合わせで、ストーリーが出来上がるなんて
確かにそういう説もあるならば、一度は考えあぐねた方ならより
勿論初耳だったとしても、辻褄があったり、うなずける所が出てくると
また面白みが広がりますよね。

歴史上のことは、どんな逸話でも、多方面からの観点があり
十人十色の解釈があったりしますからね
決定的な事実がない限り、答えは出ない訳ですから
その分、いく様にも考えを巡らす事が出来て
その都度世界観が広がって楽しいものですよね♪

またつくり手の熱意と情熱を感じられる作品つくりがされていると
より見る手側も、その情熱が心地良く見られるものですしね☆

期待して待っていただけの事はある、妥協を許さない
俳優陣、そして製作サイドの集大成を見られたようですね♪
by aya_rui (2013-01-22 15:09) 

tatchan

*aya_ruiさん*
こんにちは♪
こちらにもナイス、そしてコメントもありがとうございます^^

そう、「別人説」自体も探究心を刺激してくれますが
この映画の素晴らしいところは
なによりシェークスピアの作品に対して
最高の愛と敬意にあふれていたところなんです。
映画の中で上映される演劇も生き生きしていましたし
それに映画自体がドラマチックで
まるでシェークスピア作品を見ているかのようでした。

>期待して待っていただけの事はある、妥協を許さない
>俳優陣、そして製作サイドの集大成を見られたようですね♪

はい^^ 
映画って期待していたのに、時にはあれ~?と言うときもありますからね
今回は大満足でした☆
製作側の熱意はひしひしと感じられて
その成果を見られたと思いました。
画面的な作りこみと言う意味でも何度でも見たい作品です♪
by tatchan (2013-01-26 10:13) 

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